本を売る技術 書店員によって鍛えられるべき1冊

書店繁盛への道

お腹がすいたら定食屋に行けばいい

食料が必要ならばスーパーに行けばいい

では、一歩踏み出す勇気や新しいアイディアが欲しいときはどうしたらいいだろうか

信頼に足るメンターや相談相手がいればいいのですが、なかなか人に恵まれることは難しいです。

そこで文字による情報で奮い立たせる。特に書店の登場ではないでしょうか。

内実を知っているのでどうしようもない本が存在していることも承知ですが、

それでも書籍がもつ力は他の消費には無い魅力と効力があります。

カラダを形作るものは食品ですが、考えや意志を作り上げるものは触れた情報です。

目指すべき生き方、こうありたいという願い、ぶち当たった壁に対する適切な対処方法、

それを知るために情報を求めるのです。

どう情報を得るのか。その一つに書籍があります。

情報が出版社による編集や校正を経て印刷された商業出版物こそ王道と言ってよいのではないでしょうか。

どうしようもない本に出会わないコツについてはこちらで記事にしました。

書籍の強みは内容が読者によって共有されているところにあります。ベストセラー・古典になればなるほどに、解釈・批評が加えられ、より強固に鍛えられてゆくのです。

名作なので、それに対する解説本が存在しているというわけなのです。

内容が読者によって担保され、かつ定評のある一歩踏み出す勇気や新しいアイディアに溢れている場所。それが書店という場なのです。

しかしさて、書店が一歩踏み出す勇気や新しいアイディアに溢れているのであれば、なぜ書店は不況なのでしょうか。

これは残念な事実です。

書店員があまり本を読んでいないという目を覆いたくなるような事実もありますが

書店員のための技術書が少ないというのも事実です。

アパレルやホテルの接客・セールスの技術、あるいは保険のトップセールスマンの本はあるのですが、書店員のためのとなるとあまりないです。

今日はそんな中でも数少ない、書店員のための技術書である

2020年本の雑誌社より発行された矢部潤子さんの「本を売る技術」を紹介します。

今日のテーマは

ベテラン?対ベテラン メカ書店員がベテラン書店員の本を読んでみたです。

改めて自己紹介

さて、まずは矢部潤子さんのプロフィールです。

1980年芳林堂書店入社、池袋本店の理工書担当として書店員をスタート。3年後、新所沢店新規開店の求人に応募してパルコブックセンターに転職、新所沢店、吉祥寺店を経て93年渋谷店に開店から勤務。2000年、渋谷店長のときにリブロと統合があり、リブロ池袋本店に異動。人文書・理工書・商品部・仕入れなどを担当しながら2015年の閉店まで勤務。

一方メカ書店員のプロフィール

2008年より書店員。アルバイトを経たわけもなくひょっこり中途採用で正社員書店員となる。某チェーン旗艦店で洋書・芸術書・男性実用書を担当。POPの多様展開、平台拡張、棚の高さ調整などのワザで担当する棚は軒並み売上UP。外商部も経験し、その後別の旗艦店へ。理工書・ビジネス・文庫新書・医書ほかを担当。のち新規店舗立ち上げにも参画。出版社営業を大切にする、SNS・WEBを活用したサイン本商法、来店客数140%UPなどを達成。イノベーションとしてのkindle等電子勢力を書店員こそ知っておくべきと主張。

矢部さんと僕は、およそ30年の違いがあるのですね。世代の違いというのは重要です。

書籍売上ピークは1996年(2兆6563億円)です。矢部さんは本が売れる時代を体験していたことになります。一方の僕は業界全体が縮小する中で、さぁどうしようか。すべての書店員時代が不景気の渦中というわけです。

正直、読んでいて、もし矢部さんと先輩後輩なし忖度なしに対話したら、このやり方は無いでしょ!なんてバトルになったでしょう。

十分に共感できる部分もあれば、それは悪弊というものではないか、と感じる項目もあったからです。

古い社員の言うしきたり

矢部さん自身も改めていますが、かつて書店所作としてスリップを最後のページ後ろから2~3ページに挿すというものがありました。

この考え方は、お客様が立ち読む際にスリップが真ん中にあると、読み終えたあと飛び出すことがある。それが見苦しい。

また当時スリップによる単品管理がおこなわれていたので、商品によっては店独自のスリップを入れていました。独自のスリップを動かすひと手間で元々あるのなら、出版社スリップをついでに動かすぐらい作業として負担でなかった、という背景があります。

専門取次から一部商品を仕入れている場合、発注ミスの無いようにスリップの管理による仕分けは重要であることは想像がつきますが。わざわざ、出版社スリップを後ろページに移すのには驚きました。

そのくらい、スリップを大切にされていたのですね。

やがて店独自のスリップはあまり使わなくなり、スリップの移動だけ古き慣習として残ったのです。

入荷した商品のスリップを最終ページ間際に移す。もうそんなことをしている店は無いと思ったのですが数年前、池袋の新栄堂書店で見かけ驚いた記憶があります。

そんなことをする余裕があれば、別の事に時間を使いますがよね。棚の清掃とか。売上チェックとか。

これは一度はじめたことをやめることができない悲しき日本の仕事のサガなのかもしれません。矢部さん自身、入社して3年ぐらいでやめたというところよくわかります。けど、抵抗した人がいただろうなと想像を逞しくします。

この話を冒頭に持ってきたのは、昔の人はひと手間をかけるほどスリップを大切にしていたということを伝えたかったのでしょう。スリップを大切にしていたということは、一冊一冊の動きに気を張っていたという事でもあるのです。

今はPOSで売り上げを知れるとはいえ、その気概は、なかなか書店員に伝わっていません。

メカ書店員が考えるスリップ

僕はスリップを使った売上傾向分析は効果的であるという立場を取ります。

店の規模によっては売上が多すぎて把握できないこともありますが、レジ2,3台程度の店ならば一人でも十分把握することができます。一日の売上傾向をつかむのに、スリップをたくり売れ方を覚えることは驚くほど有効です。

売上傾向が蓄積されていない新規店舗においては特に有効です。全国ランキングなんて、店の土壌と相反することザラですからね。

なにより手が売上傾向を覚えます。お客様の棚にこういった本が入っているのだな、しかもこういう組み合わせで買っているのか、とペルソナを容易に想定出来ます。ならばこの本もイケるはず。と注文すれば、狙ったように売れます。

全体的な売れ筋はPOSデータで追えますが、売上中位や傾向、売れ方の組み合わせについては、まだスリップに分があります。

残念ながら、スリップを廃止した版元もあるので完璧に追えなくなりましたが、POS未導入の店やスリップの効能を知る店主はオリジナルのスリップ(紙切れであることも)を入れていると事があります。そのくらい大切なものなのです。

僕は、最初の担当が洋書ということもあってスリップを見る習慣がつきました。

その店では洋書のPOSデータが無いために洋書売上管理はスリップでしかできなかったのです。もし、レジがスリップを抜き忘れたら、その本が売れたことに気付けずにずっと補充されないなんて起きたのです。

そのため、新人スタッフには「スリップ命だからね。売れた本が把握できない、注文できないとは、そこから書店は腐っていくからね。もし、スリップが抜けていたらISBNメモ書きしてね。」と頼んだものでした。

売り場の帰り際に、各レジから洋書スリップを回収し、帰宅後、スリップのバーコード(洋書取次から貸与されていた)で読み込ませ、注文を飛ばしていたのはいい思い出です。

バーコードの無い洋書取次の場合はISBNをUSBケーブルでPCに繋いだテンキーで打っていましたよ。

完全に時間外の仕事ですが、不思議とそういうものだと、働いていました。


いやーメカさんスリップは懐古主義ですよね。あの版元も、その版元も止めたではないか、と言うスタッフがいて。多分、僕がスリップをたくる姿をみてそれを揶揄したのだと思うのですが、こんな話をしたことがあります。

うーん、スリップが存在している事はね、そこに意味が存在しているのだよ。POSの無い小規模零細の書店のことを考えると簡単に懐古主義を切ることができないよ。POSも万能ではなく特に組み合わせについては、スリップ以外に見る方法はPOSジャーナル検索ぐらいしかないよ。こうして、スリップをたくりながらお客様の傾向をつかむことは、売上帳票には出てこない店のカラーを確認できるものだよ。

時は流れて、そのスタッフは小規模な独立系書店へ巣立ったのですが、きっとスリップの威力を今実感している事でしょう。

POPを立てることについて

本書の話に戻ります。

矢部さんと僕で考え方が異なるのは、書店はセルフの店であるという度合いです。お客様が快適に本を選ぶ環境を作ることにこころをこめる。お客様が気持ちよく自由に手に取って、買うか買わないかはお客様が考えればいい。本が長く置かれていたことを悟られぬよう、清潔さに力を入れ、たとえ1年前に入荷したものであってもピカピカであるべきだ。POPが後ろの本の妨げになってはならない、回遊性を損なう過剰なワゴン展開・平台拡張はしてはならない、というのが矢部さんの考え方です。

僕は、お客様をいかに売り場で買わせる気持ちにするか、に重きを置いています。そこでPOPはお客様の買う意思を後押しする一手として重用しています。できれば手書きのがいいです。すべてに付けろとは言いませんが、10タイトルあるとして3タイトルはあってもいいのではないでしょうか。

社会インフラとして本の形をした情報をお客様に適切に提供する場が書店であると常々考えていますが、書店員の目による編集を、おきまりの新刊・定番に添えるように見せることを大切にしています。

本書の中で指摘されていますが、POPが立つことで後ろの本が目立たなくなります。たんにこれは、あんこを活用して後ろを高くすればいいのです。

余談ですが、後ろの視認を妨げないように、POPを書籍に張り付けるという方法も一部書店ではみられますが、表紙も書籍の一部なのであれはあれで問題だと感じます。

最も共感したのは、売れた本を次の日には注文するという考え方

セルフで快適な売り場を目指すのか買わせたい売り場にするか違いはありますが、一番共感したのは、売れた本を注文するという考え方です。

マンパワーの厳しい店舗やジャンル担当にモノが言えない小心店長がやりがちなのですが、担当が不在の場合、その日の新刊は最低限しか出さない(ときに全く出さない!)補充品は出さないという事があります。

当然に補充発注もジャンル担当者が独占的に行っています。

その結果、品出しや補充注文が日でズレるのです。ときに、週末を挟むことがあり、みすみす週末の売上を逃して目を覆いたくなります。

一度売れる商品が再び売れる。これが書籍の特徴です。なるべく在庫ゼロ状態を作らないことが重要なのです。

そのため、昨日の売上帳票を出して、逐次発注をかけてゆきます。買い切り版元、明らかに客注と感じるもの、売れるのに時間がかかり過ぎたものを除きながら発注をかけるのです。これは日々のルーティンにしています。

それだけではありません。

月末にその月売れた実績があるのにもかかわらず、在庫が補充されていないものに、再度発注をかけるのです。この2段構えで、在庫ゼロ漏れを防ぐのです。

さらに三段目のチェックとして

棚卸の後、本来在庫1であるはずが在庫ゼロと判明されたものに対して補充発注をかけてゆきます。これは万引きでデータ上在庫があるが、実在庫はゼロとなってしまったものに対しての最後の防衛線です。

お店を利用している誰かが買った実績のある書籍で棚を構成してゆくのが、回転率の高い棚づくりなのです。その、第一手が、昨日売れたものの確実な発注なのです。

正直、これが出来ているだけでも売上げがUPします。

できていない、ということは仕事がチームになっていない証拠だからです。

売れた本を補充発注するのはどこまで追うのか。売れ続ける限りです。もうこれはブーム終わっただろうと判断せずに注文をします。もちろん、その1タイトルが棚に要求される標準未稼働日数を超えてはいけません。

繰り返しになりますが、

最低限譲っても売れたものを月曜日火曜日に注文して週末に間に合わせる。これが基本です。この補充注文が週末の売上を決めていると言って過言ではないためです。

担当が休みだからと補充に穴を空けるのは、お店のお客様に対しての罪だと考えています。売れたものはない書店なんて。なんと気の利かないお店ではないですか。

書籍を前に出すというひと手間

もう一つ共感したのは、前に出すことで背表紙に光を当てるということです。

時々、本棚の奥にあわせている書店がありますが、自分の本棚とお客様へ売るための本棚は異なります。

売るためには見た目を整えるのです。

さらに言えば、平台も前で揃えています。本書では特に取り上げられていませんでしたが、棚平台でも通路側にせり出すように本を前へ置くことが大切です。

ときどき、棚平台と棚の間の空間にほこりが溜まるからと、後ろに引いているお店がありますが、売る気があるのかと疑いすら覚えます。

買って欲しい感が前に出す事で発生するのです。

これは、もう書店所作というか思想に近いものがあります。

本を前に出すことに関して、什器が本のサイズにフィットしていることがベストです。特に紀伊国屋書店新宿本店のように文庫の什器は棚平台は3列置く、を前提にしているやり方は見てスッキリします。

平台に立てるように複数のタイトルを挿す、通称ダイコン差しという展開方法がありますが、チェーンによっては本が傷むからと止められますが、紀伊国屋さんは比較的やっています。これは、なるべく多くの書籍でお客様をお迎えしたい、出会いを提供したいという思想の発露だな、と僕なんか感じ入ってしまうのですが、いかがでしょうか。

あのダイコン挿し。平台スペース1タイトル分を犠牲にしても、この書籍群をこの書籍の近くに置きたい、という意図の表れなのです。

このように、本を前に出す、いかにして多様性を確保するか、分かっている書店員はやっています。

平台に空白、書籍が引っ込んだ棚平台、奥で背表紙が陰になっている棚挿し、空間目いっぱいに書籍展開が出来ていないお店が売り上げ不振を嘆いているとするならば、何を言うものぞなのです。

少ない在庫で最大の売上を作るという事をどこまで追究できるかが書店員のミッションではないでしょうか。

書店員だけではありません。多くの小売業はそのための工夫を重ねているのです。

少ない在庫で最大の売上を達成する方法として

平台拡張を取り入れるかで矢部さんと僕は考えが違うのですが、

商品が傷つく可能性のある平台拡張、を否とするか。

商品を傷つける懸念はあるが、選択の幅を広げる、せっかく出版された書籍に少しでも光を当てたい、と考えるかの違いなのです。

書店で手っ取り早く売上を増やす。方法についてはこちらでまとめました。

本を売る技術はさらに進化を続ける。例えばSNS

この本で述べられていないのが、本の売るためのSNSです。

売り場だけではなく、SNSを使ったおすすめの発信。サイン本の紹介。周辺情報の発信。それがファンをつかみ、これからの書店を特徴づけるものになるでしょう。

これは、未来の書店員がよりアップデートされた本を売る技術として上梓されることを期待し願っています。

これは僕のアイディアですが、

著者を囲い込み、著者自身のSNSからの発信と連携する。定期的なサイン本の供給、これが持つ力、可能性は大きいです。

お店がますます個性を出してゆく。これが戦い方ではないでしょうか。

もちろん、サイン本の取り置きも受け付けましょう。サイン本の店頭取り置き出来ないというのは、なんだか意地悪ではないでしょうか。

サイン本の転売がムカつく?

もし、サイン本が定価以上で流通するのであれば、さらに著者さんから供給されればいいのです。転売さんが困るぐらいに供給すればいいのです。

他にもやり方があるかもしれません。まだまだ、売り方を深化させることができるのです。

さいごに

この本を読んだからって、すぐに本が売れる技術が身につくという事はありません。ただ、この本の読みを通じて、そうかな?と首を傾げたり、そうだ!そうだ!と膝を叩くことで自分が今までやってきたことに客観的になれる良書であることは確実です。

売上のための不変の法則などなく、状況に応じて変化してゆくことが大切です。

限られたスペースで最大の売上を作るにはどのようにしたらいいのか。今も多くの書店員が頭を悩ませています。

どのようにして、お客様の背中を押すのか。その結果が、新たな本を売る技術として実ることを楽しみに、いや業界の発展のため必須ではないでしょうか。

矢部さんの書店員になったのが1980年。セルフ式スーパーが行き渡った頃です。

そのセルフ式で1996年まで書店の売上は伸びました。

しかし一転売り上げが下降し続ける平成二桁時代。

ジュンク堂書店が繰り出したメガストア展開も、ある規模から棚効率が極端に悪くなることがわかり、さらにAmazonも現れました。

なかなか回復しない売上。それに対抗する一つの解が書店員による発信とPOPだと僕は考えます。

そして、矢部さん・メカ書店員を超えた、さらなる方法が現れるのか。すでに現れているのか?

本を売る技術という本の意義は、これを読めば本が売れるようになる、という効能の有無ではなく、

これを土台に更なる方法を編みだされることにあります。

解釈・批評が加えられ、より強固に鍛えられて名作になるのです。

メカ書店員とかいう謎の覆面書店員は2021年の段階でこんなことを言っていたが、べつの方法見つけたよ。なんてあってもいいのです。愉快じゃないですか。

個々の書店員の創意工夫と勇気が現れる快活な業界であって欲しいではありませんか。

今日はここまで

本書は色々なチャンネルで買えます。

本を売る技術posted with ヨメレバ矢部潤子 本の雑誌社 2020年01月22日頃 楽天ブックス Amazon Kindle 7net honto 紀伊國屋書店

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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