名刺代わりの書籍10選。Twitterでよく見かけます。
よく見かけるのにあわせて、メカ書店員も作ってみました。
ただ、タイトル紹介だけでは面白みがないので、書評とまではいきませんが、こころおもむくままに紹介文と書店で置くとしたらを書いてみました。
名刺代わりと言うぐらいなので、結構このチョイスはメカ書店員の人となりを体現したものとなっています。 よろしければお付き合いくださいませ。
40代にしておきたい17のこと/本田健
〇〇代シリーズは少し先行して読むことをオススメします。
20代のうちに30代40代を読んで準備するのです。
10年先20年先のことに思いを馳せるのに役に立ちます。
人生なかなか計画通りにゆきませんが
家族・親戚との関係は、この本がきっかけで見直すようになりました。
はじめての「本田健」本としてもオススメです。しかも入手しやすい。
お店でも平積めばまず売れます。
タイトルがいいですよね。~しておきたい、と背中を押しつつ
「17のこと」と限定している。
SEOの見本のようなタイトルです。

40代にしておきたい17のことposted with ヨメレバ本田健 大和書房 2011年04月 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店ebookjapan
饗宴/プラトン
哲学者ソクラテスの対話をプラトンが書いたものです。
哲学というととっつきにくいイメージがありますが
ソクラテスは対話で進むのでわかりやすいです。
愛とは何かについて語ります。
愛はなぜ発生するのか、相手に愛欲を感じさせる何かがあるのか?
それとも自分の中に何かが生じたのか
愛がもたらす、名状しがたい感情が特異に波立つ感覚について迫ります。
愛について考える基本書といって過言ではありません。
お店で売れるかというと少し厳しいが「これぐらい読めよ」と期待を込めてつい注文してしまう本です。
タイトルが悪い、饗宴じゃイメージが湧きづらいです。
饗宴というタイトルいいですよ。好きですよ。シンポジウムの語源となったシンポジオン。由緒正しいです。聖書ぐらい由緒正しいタイトルです。
しかし、令和の時代、このままで恋愛本コーナーに置いてもまず売れません。
饗宴ではなく
「ギリシャ直伝!恋愛の達人が教える、私も彼もハッピーになれる17の愛情のコツ」
と翻案し、ホストのローランドさんにお願いをして、帯を書いてもらうといいでしょう。
まぁ、怒ったプラトンに回し蹴り入れられそうですが。
このくらいの大胆さが、今の出版界には求められていると思います。

饗宴改版posted with ヨメレバプラトン/久保勉 岩波書店 2008年12月 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店ebookjapan
コンビニ人間/村田沙耶香
ちょっと感覚がずれている人のお話です。
ちょっとしたずれって、誰しも薄っすらと持ち合わせている事なのですが、
コンビニを舞台に絶妙に小説にしています。
ごくありふれた場所で繰り広げられる、すこしずれたお話。
メカ書店員は、からあげ棒のシーンが好きなんだな。
仕事から発生するタスクと私生活から発生するタスクが並走する場面はおかしくもあり、リアルなんだな。
本作芥川賞を取っています。ここ10年でもっとも傑出した芥川賞ではないでしょうか。
海外での翻訳も進んでいますし。
将来のノーベル賞候補とまで僕は推しています。
お店としては、入手しやすく、しかも売れる。
定期的に話題になる。平積みマストなタイトルです。
逆に返品したら怒られますね。

コンビニ人間posted with ヨメレバ村田 沙耶香 文藝春秋 2018年09月04日頃 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店ebookjapan
ソラリスの陽のもとに/スタニスワフ・レム
タルコフスキーの映画「惑星ソラリス」の原作です。
SFですが、愛とは何かを考えさせられました。
意志を持った惑星から照射される電波?によって
こころの中で一番愛しいのだけど傷つけてしまい古傷になっている人物が実体として現れるのです。
しかも、宇宙ステーションの中です。
あなたもいませんか?もう会えない、あるいは会うことはないのだけど、気になる人。
その幻影と和解したい気持ちで、常に脳のCPUを数パーセント使っていませんか?
行ってみたいな「惑星ソラリス」。惑星調査そっちのけで、幻影と共に堕ちてゆきたいものです。
お店としては、挿しで1冊在庫しておけば十分です。
定期的に売れますが、平積む必要はありません。
こういうのが売れると、お客様分かっていますね。とキュンキュンしてしまいます。

ソラリスの陽のもとにposted with ヨメレバスタニスワフ・レム/飯田規和 早川書房 2010年02月 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店
トニオ・クレーゲル/トーマス・マン
芸術的な生き方か一般人として正しい生き方をするのか、そのどちらかしか選べないという話。
「一度しかない人生だもの」というありふれた背中を押す言葉に立てば、放埓に挑戦を重ねる人生はまばゆく周囲の羨望を集める生き方と言えましょう。
けれども、家族を養い、生業に勤しみ、日々に感謝しながら、品行方正に生きてゆくこともまた魅力的です。
しなやかで健康的。健全な精神が放つ暮らしぶりは溌剌とし、一時の感情の傾きに惑わされない考え方を目の当たりにするたびに、芸術的な生き方を志向していた身は強い光を浴びた時のように心が悶えます。
純粋に魅力的なのです。 なにが、魅力的って大多数がそういう生き方をするからです。
時代を共に生きる大多数と喜びや悲しみを分かち合うことができる生なのです。
芸術的資質を持ち合わせるからこそ、一般人の持つ美しさを細いアンテナが捉えてしまい、自分ではとうていたどり着けないものと羨望は強化され慄くほどに感じてしまうのです。
まぁ現実的な話をしますと、時を経て芸術的な生き方か一般人として正しい生き方か、そのどちらも選べずどちらも得られない事に愕然とすることがあります。
中年の蹉跌というテーマは他の文芸作品に譲るとして、芸術的な生き方か一般人として正しい生き方かという、古典的な問題を扱った本作の価値は21世紀にあっても失われていません。
お店としては、それほど売れる本でありません。トーマス・マンは「魔の山」が有名ですが、これも知名度の割に売れない本です。挿しで在庫しておけばいいでしょう。
なお、三島由紀夫は尊敬する作家としてトーマス・マンをあげています。その絡みで、三島作品と並べるとワンチャンあるでしょう。
けど、月5で売れるような作品では残念ながらありません。薄くていい本なんだけどね。

トニオ・クレーゲル ヴェニスに死すposted with ヨメレバトーマス・マン 新潮社 1967年09月27日頃 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店ebookjapan
エンデュアランス号漂流/アルフレッド・ランシング
書籍には冒険旅行系というジャンルが存在しています。
沢木耕太郎の「深夜特急」なんて有名ですね。
余談ですが、「深夜特急」第何巻が好きですか?1~6巻。僕は圧倒的に6巻です。
海外旅行。18歳を超えたあたりから、少なくなったとはいえ一定数の若者は旅行したいと考えます。
実際に旅行に行く前に行った気分に浸りたい。ガイド書とは別に旅行記を読んでみたい、そういったニーズがあります。
東南アジア・インドあたりが現実的で20~30万円もあればいけます。
この方面のゆるくて・美味しそうで・ちょっとしたお得情報のある本が売れ筋です。イラスト入りだとなおよい。
香港で飲茶。ベトナムでフォー。タイでゾウに乗って。みたいなのが月10で売れてました。
しかし、少数はそんな甘い旅行に飽き足らず、刺激の強い本を求めます。
地球の歩き方に紹介されている場所をスタンプラリーのように巡るのが旅行なのですか?だれも行ったことがない場所に行くことが本当の旅じゃないですか。と主張する。
少数派はどんどん過激になります。出版社はそれに応えます。
そこで、生まれた商品群が面白いのだな。
西南シルクロードは密林に消える(高野秀行)
サハラに死す(上温湯隆)
チベット旅行記(川口慧海)
ヌバ(レニ・リーフェンシュタール)
時代を超えて、三大陸周遊記(イブン・バットゥータ)や
現実には存在しない、類推の山(ルネ・ドーマル)とか
エンデュアランス号漂流もその一つで、舞台は南極。1914年当時誰もなしえなかった南極大陸横断にシャクルトン率いる英国探検隊が挑むのですが、遭難。
おりしも第一次世界大戦が勃発し本国からの救援も期待できない。そんな絶望的な状況の中でシャクルトンは自ら、南極からカヌーで一番近い島であるサウスジョージアに向かう。吠える40度、狂う50度を超える絶叫する60度の海域を、星空で進路を確認しながら!見事渡海は成功!全員帰還する。という内容です。
遭難して南極で越冬するのですが、太陽が上がらないですからね南極。すごく過酷です。狂気です。
この本の何がいいって、写真が残っているのです。
カヌーで救援を求め出発するシーンが写真で残っている。その写真をこうして見ることができるのは、無事生還できたからなのですが、生きて母国に帰れるか分からない中であっても希望を信じ、手を振り見送る姿に胸を熱くするのです。
このとき使われたカヌーがイギリスに保存されているのですが、いつか見たみたいスポットの一つです。
この本、お店的には残念ながら絶版です。類書もありますが、売れるかどうか?怪しいです。舞台は南極ですので需要は極めて少ないです。
ただ、挿しておくと、この書店分かっているね!冒険心ある棚だ、と格があがります。
旅行棚の格は南極・北極・西アフリカを含んでいるか、
英字旅行ガイド、ロンリープラネットも揃えているか、
ロンリープラネットでも、北極・南極・アフガニスタンを揃えているか、
そうやって見ているのですが、こんな酔狂な棚こそ愛おしくなるのです。

エンデュアランス号漂流posted with ヨメレバアルフレッド・ランシング/山本光伸 新潮社 2001年07月01日頃 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店
会社を潰すな!/小島俊一
書店再生にまつわる小説です。実際に再生させた小島さんによるものだから説得力がある。
書店再生の要諦は現場力です。自分たちがやっていることを評価し、また努力がバラバラの方向にならないように尺度をもうける。PLを読めるようにする、ということです。
メカ書店員の発信も意識無意識に小島さんと重なる部分があります。
リアル書店を舞台にした本は色々あります。しかし、結末が退職だったり閉店だったりすることが多く、結果的に暗い本が多い中だからこそ輝いている本です。
新入社員へもおすすめです。
お店的には、POP立ててビジネス書として平積めば結構動くでしょう。三枝匡さんのビジネス系文庫の隣なんていいですね。
逆に文庫で挿しにすると弱いタイトルです。

会社を潰すな!posted with ヨメレバ小島 俊一 PHP研究所 2019年10月02日頃 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店
ネコ型社員の時代/山本直人
ネコ本もまた一大ジャンルを形成しています。
ネコの飼い方といった実用書だけではなく
イラストエッセイ・写真集・絵本・小説・カレンダー・小物雑貨・ぬいぐるみ
組み合わせ方ですそ野の広いフェアを作れます。
しかも2月は毎年ネコの月なので(2→にゃん、だからです。2月22日はにゃんにゃんにゃんとなるのです)世間がネコで盛り上がるので売上も作りやすいです。
さて、本書は会社員にはネコ型もいるよね、と論じた本です。
「自己実現」に幻想を持たず、出世のためにあくせくせず。滅私奉公に背を向けつつも、得意分野では爪を磨ぐ。そんなネコ型社員が増殖している。忠犬型社員だけでは、企業は生き残れない。鍵を握るのは、気まぐれなようでいて、タフでしたたかなネコ型社員である。
増殖しているかどうかは会社によりますが、メカ書店員はネコ型社員ですね。得意分野の爪を研いでいるタイプです。はい、気まぐれです。忠誠心ないです。褒められるのに弱いです。
今回名刺代わりの・・・という事ですので、これを加えない訳にはいきません。
さて結構面白く、ネコ本フェアにふさわしい新書なのですが残念ながら絶版です。
毎年書店では、ネコ本フェアが組まれるですが、ビジネス絡みのネコ本はほとんどないです。どこか出版しないですかね。ネコなビジネス書。現在ブルーオーシャンですよ。
そうだなぁ、例えば、ネコと渋沢栄一なんてどうでしょうか?

ネコ型社員の時代posted with ヨメレバ山本直人 新潮社 2009年03月 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店ebookjapan
フォントの不思議/小林章
モノが高級に見えるのはフォントの力です。
フォントが違っても、伝わる意味は同じですが、印象が異なって伝わります。意味すら変わることがあります。
日本語はアルファベットに比べて漢字ひらがなカタカナという表記のバリエーションがあります。おまけに表音文字・表意文字が混在しています。
文章推敲以前の問題として、ターゲットに気持ちを伝えるためにフォントを間違えてはいけないのです。
リアル書籍を扱っているとよく分かるのですが、小説の内容、文章の内容で売上の優劣が決まるのかと思いきや、それ以前段階で売上が決まっている場合があります。
それは、デザイン・装丁の力です。
売れる匂いがする本と体感的な表現をしてしまいますが、デザイン・装丁が持つお客様のこころを動かす力をリアル書店で目の当たりにします。
勝てる色なんてのもあるのです。
電子書籍への物足りなさの一つは、リアル本であれば当然に持っているデザイン・装丁の魅力が電子ではほとんど感じられないところにあります。
リアル書店、リアル店舗は様々フォントによる工夫を見ることができます。
そういった、フォントを意識する手始めとしてこの本はオススメです。
ポートフォリオ(美大芸大生の制作実績をまとめたもの)を書く人も必携です。
この本、お店で売れるかというと、店を選びます。
フォント書は広告・デザイン書が売れているお店でないと厳しいです。
ただ、「フォントの不思議」だけに関して言えば、ビジネス書ブランディングでも売れるのではないでしょうか。
カッコいい1冊です。

フォントのふしぎposted with ヨメレバ小林章 美術出版社 2011年01月 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店
さよならギャングたち/高橋源一郎
高橋源一郎。最近テレビでよくみるので評論家のようですが、本業は小説家です。
「さよならギャングたち」はデビュー作です。
この小説はっきり言って筋がイミフです。意味不明。
ポップ文学(1982年刊行)といいますが、小説ってこれでいいのか?
脳を揺さぶる挑戦的な本です。
是非、読んで下さい。40年も前にこういうものあったのです。
こういうのも文学なんだ、なんだこれ感覚を喚起するのが文学なんだ。
と思い知ることでしょう。
正義が悪を諭すわけでもなく、登場人物に殺人鬼が紛れ込んでいるわけでもない、男子と女子が惹かれあうわけでもない。
結局主人公死なないでしょ。今週出てきた新しい敵は来週倒されるのでしょ。印籠は20時45分でしょ。不信任案否決されるでしょ。
世の中の「おきまり」って、ちょっとウンザリすることありませんか?
そんな時は、高橋源一郎の「さよならギャングたち」なのです。しかも、これがデビュー作。
高橋源一郎ここ数年の評論家のようなイメージで読むと驚くことでしょう。
うーん、こういうのを激推したくなる、これがメカ書店員の本質です。こういう自由表現が解釈され評価されるところに自由の深さを感じるのです。名刺代わりのというぐらいですので、これを選ばない訳にはいきません。
さて店で売れるかというと、店を選びます。講談社文芸文庫という文庫と名乗る癖に値段がべらぼうに高い文庫がありますが、その一角にあります。
1冊在庫してもいいのではないでしょうか。最近の高橋源一郎さんの本の近くに置けば、事故のように売れるかもしれません。けどそれは公正でないので、文庫棚にお客様への挑戦状のように挿すにふさわしいと考えます。
密かに忍ばせるアイテムとしての講談社文芸文庫。好きです。

さようなら、ギャングたちposted with ヨメレバ高橋 源一郎/加藤 典洋 講談社 1997年04月10日頃 楽天ブックスAmazonKindle7nethonto紀伊國屋書店ebookjapan
最後に
#名刺がわりの小説10選
ということですが、小説で無いのが交じるのはご愛嬌です。
小説家で言うと、はやり村田沙耶香さん好きです。
繰り返しになりますが、海外翻訳も進んでいます、ノーベル賞に近いと思います。
今日はここまで。
お読みいただきありがとうございました。