書店は新たな顧客を創造できるか 希望の書店外商

書店繁盛への道

現在の書店外商は主に大学・図書館・研究所・病院を相手にした法人営業をしています。

どんなお仕事なのかはこちらに書きました。

現在のところ書店外商は百貨店外商とは違い、個人への営業に力を入れていません。

しかし、個人を外商の対象に出来ないものでしょうか。

本は低単価、どれも同じ、宝飾品のような希少性が無い。高額で売ることはできない。

これは決めつけではないでしょうか。

現に、頻繁ではありませんが1万円を超える豪華本が出版されます。大学図書館には様々なセットものの書籍が納入されています。

豪華本のパンフを出版社より貰うたびに「こんなもの売れないよね。」と諦めていませんか。

それは驕りと言うものです。

買うか買わないは書店員ではなく、お客様に委ねられています

大規模書店になればなるほどお店のセルフ化が進んでいます。

桁違いのお買い上げをするお客様はどの店にもいます。にもかかわらず同じ対応をしているのが現状です。

書籍にお金をかけているお客様は高額本でも内容さえよければ買わないでしょうか?

書店員は自分の棚の売上、冊数には敏感ですが、だれに何を売ったか鈍感です。

ポイントカードだQR決済だ。と導入していても、太客を把握していないのであれば、やれ売上がやれ不況と口にしてしまうのはマズいのでないでしょうか。

という事で、今日は繁盛をつかむため。いかに太客を取り込むかという話です。書店が新たに顧客を創造するための書店外商論でもあります。

希望の書店外商

高額お買い上げのお客様に対して、本の御用聞き、提案をする外商があってもいいのかもしれません。

自分が買った本が把握されるのは嫌だ、個人情報が云々、という嫌悪感ありますか?

違います。じつは人間、自分の趣味を他人に話したくてうずうずしているものです。

贔屓にしているお店で、大量に書籍を買っていて、しかもポイントカードを提示しているお客様は、どうぞ私が買った書籍の話をしてください。オススメがあれば教えてください。

とこころの中で待ち構えているものではないでしょうか。

たまに銀行窓口に税金を納めに行くとき。口座に1,000万円ぐらい入っていると、声かけられますよね。投資にご興味ありますか?と。あれと同じです。

あぁ、特別なお客様だと分かっているのね。と認知されるだけでも嬉しいものではないでしょうか。

こういうことが現在書店ではできていません。

試しにお店の高額利用者10人に商品券でもつけてDMを送ってみてはどうでしょうか。来店された際に、これから特別なお客様としてご案内を送りたい。とこころの扉を叩いてみてはどうでしょうか。

何を案内するのか。購入傾向を把握しているので簡単です。

この人はゴルフ、海外旅行、現代の英米文学、ドイツ車、と趣味を抑える。それにピンポイントであった新刊を定期的にご案内すればいいのです。

お客様の代わりに新刊をコーディネイトする。

さらにお買い上げいただくことで、もっと精度の高い提案ができるようになる。

そのように囲い込んでゆくのです。

まず単店舗上位10人でできるかやってみる。それが上手くゆくようならチェーンで取り組んでみましょう。

ビジネスとして成り立つか簡単に試算してみましょう。

太客をチェーンで250人選出して、個々に向けたDMを作成し、250人が平均月5,000円購入金額が増えたならば、125万円の売上アップとなります。

広範な新刊への知識が必要になりますが、太客が増えれば増えるほど効果的になります。

太客とガッツリつながりメニューを増やしてゆきます。

サイン本のお届け。特別な本の催し物。不要になった本の整理代行。目録の作成。本棚設置の案内。

本にまつわる商売は店舗で完結するものではありません。お客様の懐に飛び込んでこそできる商売もあると考えるのです。

個人外商の展開は新たな売上を生み出すものではないでしょうか。

本が物として持つ価値を伝える外商

本には内容以外にもヴィジュアルが持っている価値があります。

建物のエントランスにふさわしいヴィジュアルの良い書籍を提案する。

定期的にタワーマンションやオフィスビルを巡りエントランスの書籍をコーディネイトする。そんな商売も成り立つでしょう。

しかも、売って一度きりにするのではなく、数年後半値で引き取り、新しい本を置く商売にするのです。

ビジネスとして成り立つか。簡単に試算してみましょう。

100社契約し、装備(書籍をラミネートすること)選書料を加えて1社あたり10万円で契約。10万円のうち書籍代は60%ほどにしましょう。年間で1000万円の売上。粗利532万円。

選書は先ほど登場した個人外商DMで取り上げた本から抽出すれば手間がかかりません。

そして、数年に一度メンテナンスとして入れ替え代金をいただくのです。

これは、庭師のようなものです。

良い庭でお客様を迎え入れるように、良い書籍でお客様を迎えるのです。

店舗に観葉植物をレンタルする商売がありますが、その書籍版といってもいいでしょう。

個人の会社としてやっているところは見かけますが、まだ会社として組織的にやっているところは聞きません。

アート本を売る 銀座蔦屋の試み

外商が個人や外部で稼ぐ取り組みとして、今でも商いが確認されるのが銀座蔦屋書店と丸善日本橋店です。

このサイトで銀座蔦屋書店の外商が紹介されています。

これはアートに特化された興味深いやり方です。

時々、画廊に行くのですが、絵を買うことを思えば本は安いです。

紹介されている33万円の

David Hockney(デイビット・ホックニー)の大型本

33万円。書店員目線ではこの値段は高価です。

けれども、絵を買うこと思えば激安です。

なにせホックニーに『芸術家の肖像画―プールと2人の人物―』というのがありますが、これは100億円します。

それを考えれば33万円は安くないでしょうか。

もっと強固な紙材を使い、100万円超える商品に仕上げても良かったのではないでしょうか。

売る側は、100万円超えていても。堂々と言えばいいのです。

これ、原画ですと100億円です。それがわずか10000分の1で手に入るのです。しかもこの大きさ。世界に数冊とない特別な本です。ホックニーは現代アートの精華。これがエントランスにあると空間が引き締まりますね。そして、この絵が象徴している物は云々・・・

高額商品を売るのは意外と簡単です。高額だから買い手ははじめから価値を信じているからです。

特に評価が定まった現代アートには、すでに蘊蓄が積み重ねられています。売る側はその一部を伝えるだけでいいのです。

買い手は自ずとその蘊蓄沼に迷い込んで、価値を信仰しだすものなのです。

蔦屋書店で展示されている何点かのビックブックは、顧客の創造という意味で興味深いものがあります。

個人的に残念なのは、マーク・ロスコが無いことです。マーク・ロスコこそビックブックに向いていると思うのですが・・・。それに、ビックブック、高価なのに安直なネーミングに感じます。

はい。蔦屋書店ことTSUTAYAの取り組みでした。

一方、老舗書店で何を行っているでしょうか。

稀覯書を売る 丸善雄松堂の試み

稀覯書という世界があります。

印刷書籍は500年の歴史がありますが、その中で重要な本が幾つか存在しています。

  • レイ・ブラッドベリの初版本
  • ドストエフスキー 罪と罰の初版本 
  • 福沢諭吉の原著 

文学や歴史の教科書に出てくるような本です。

  • 王宮に収められた宝石付き美装丁本

なんてものあります。

これらが丸善日本橋店で売られています。

店舗の中にさらに扉があり近寄りがたい雰囲気がありますが

一見の価値があります。

ワールド・アンティーク・ブック・プラザとは? | 古書・稀覯書
世界11カ国、20以上のアンティーク・ブックショップのプラザが丸善日本橋店にオープン!

さらにはグロリアクラブという愛書家の集いもあります。

本格的ですね。海外の稀覯書店と連携して仕入れています。

さきほど、

買い手は自ずとその蘊蓄沼に迷い込んで、価値を信仰しだすものなのです。

なんて書きましたが、ここにも似たような匂いを感じます。

同じ内容でもっときれいな本があるにもかかわらず、

これは時の荒波、様々な持ち主を経て、私の元にやってきた本なのか、そんな陶酔を味わうために大枚をはたくことを厭わない世界。

そういうものがあるのです。

どの店でもできるものではありませんが、これもまた顧客の創造ではないでしょうか。

Twitter 最初のツイートが3億円の衝撃

ツイートにどうして価値が付くのか、「非代替性トークン(NFT)」と呼ばれるデジタル資産がどんな仕組みかはさておいて、とにかく初めのツイートが3億円で売れたという事件は情報を扱うものとして抑えておきたい事実です。

本の形をした情報は、多くの人に知られたい、共有されたい、そんな指向性を持っています。貴賤、都鄙を問わず平等に伝播するべきものである。再販制度が存続している背景もその指向性から来ています。

都会でも地方でも同じ内容で同じ値段。情報とは平等であるべきと言う考え方がそこにあります。

しかし、その価値が時に逆転するのです。

書籍に書かれた内容は、どこにでもコピーが存在している。しかし、目の前にあるこの本はただこの1冊だけ。

この1冊しかない、と値段が希少性の力で吊り上がるのです。その分利益を上乗せすることも可能になるのです。

書店の取り分を増やそうじゃないか、だから買切りしようという議論がありますが、方法はそれだけではないと考えます。

書店の現場が創意工夫をもって利益を探し求める努力しても良いのではないでしょうか。

例えばサイン本を仕入れて利益を乗せて売る。初版本だからと利益を乗せて売る。選書料を乗せる。

利益を乗せるだけではありません。

A書店B書店とあって、A書店は地域社会への貢献として読み聞かせ巡回を行っている。B書店は特にそういった活動をしていない。であればお客様は同じ値段の本であってもA書店で買った方がお得感を得ることができるのです。

これは、Amazonではなく地域の書店を応援したいから地域の書店で買うという消費行動にも類似点があります。

所属する書店がどんな考え方を持って書店業をしているのか、それをお客様に伝えるだけで付加価値を付けることができるのです。

誰もがアクセスできる、初めてのツイートに3億円の値段が付く世の中です。捉え方を変えるだけで付加価値を付けることができます。

例えば、文庫本を額装して1,000~1,500円で売っていることがありましたが、ああいう柔軟性が大切だと考えるのです。

書店が扱う通常の商品群に希少なアート書や稀覯書という補助線を引くことで、新たな商売が創造できるというものではないでしょうか。

企業の目的の定義は「顧客を創造すること」

ドラッカーによれば、企業の目的の定義は「顧客を創造すること」です。

本ってこのくらいの値段で、こういう人に売れるよね。という固定概念にとらわれていては創造性がありません。

果たして、店頭で売っている本。その売り方は顧客を創造していますか?

立地の力、店の力、それだけで本を売るのではなく、知恵で売りませんか?

色々と苦境が伝えられますが、

そういう時だからこそ、思い切った提案があってもよいのかもしれません。

今日はここまで

お読みいただき、ありがとうございました。

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