AIと書店員の対決は結局どうなったんだ?

書店繁盛への道

書店で出版されてから時間が経ってもなお挿さっている本とは、定期的に売れている本です。

しかし、すべてがすべてそのとおりではなく

いくら売れなくてもこれは俺の棚に置いておくべきだ、とこだわって在庫し続ける書籍が時々あります。

図書館においても同様で、あまりに利用率が悪いと不要な本としてリストアップされ処分される候補となります。

これは名作なのに!なんで住人は借りないのか!この良さが分からないのか、

くーこのままでは処分されてしまう!なんとかせねば。

そこで、貸出実績を作ってしまう事があるようです。

アメリカでこんな事件がありました。

架空の人物のカードを作り上げて、不要リストの本を借りまくったのです。それも何千冊と。

なぜ図書館員は不要な本を除去するアルゴリズムと闘うために違法行為を行なったのか? – GIGAZINE

なぜ図書館員は不要な本を除去するアルゴリズムと闘うために違法行為を行なったのか?
アメリカの図書館では長期間借りられていない本を検出して、本棚から取り除くようにリストアップする専用のシステムが使われています。検出された本の代わりに別の本を入れられるようにするためのシステムなのですが、フロリダ州の図書館員が架空の人物を作成して「人気がないものの長期的に必要な本」を借りさせることで、アルゴリズムの追跡を...

これはアルゴリズムと図書館司書の勘がぶつかった興味深い事件です。

アルゴリズムでは利用が少ないから不要な本と判断するが、

図書館司書の勘としては利用が少ないが稀にリクエストがあり、そのたびに購入するのは不経済。だから蔵書しておきたいと貸出実績を捏造したわけである。

利用者数で補助金が決まるという仕組みがある関係で、不正な貸出実績を作ったと図書館司書が罰せられる結果となったが、図書館司書が感じた不満にジャッジが下されたわけではありません。

アルゴリズムやAIによる選書に対する不満が解消されたわけではないのです。

書店員とAIの今。今日はこのテーマで考えてみたく思います。

2018年の話題であったAIによる選書

2018年頃、日販・トーハンともにAIを使った選書が話題になりました。

特にAI選書と書店員選書の対決は興味深いものでした。

日販がSeleBoo(セレブー)というAIを作り、AI選書と書店員選書を並べ2018年5月~6月にかけて日比谷のHMV&BOOKS COTTAGEで販売してみたのです。

選書対決、結果はAI側32冊、書店員側が65冊でした。

「あなたなら店員とAIのオススメ、どっちを選ぶ?」本屋さんで「大人の青春」をテーマに選書で店員とAIが対決!勝ったのは | ロボスタ - ロボット情報WEBマガジン
株式会社ローソンエンタテインメントは、東京・日比谷"女性のための本屋"「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE(日比谷コテージ)」にて書店員と日本出版販売株式会社の共同開発した選書AI「SeleBoo」(セレブー)による選書対決を2018年5月3日(木)~6月3日(日)までの1ヶ月間実施した。「SeleBoo

書店員側の面目躍如となったわけですが、

どうすれば、本が売れるか勘どころを知っている僕の立場から見ると

ダブルスコアにとどまらずトリプルスコアも狙えたのではないかと思うのです。

AIは想定客を30~50代/女性、キーワードを”大人女子” “アラフォー” “青春” “充実”と設定した選書であったのに対し、

書店員側は実際の来店客を思い浮かべての選書でした。

日販データのざっくり30~50代/女性という範囲で考えるのと

東京都千代田区日比谷(有楽町駅や帝国ホテル、東京宝塚劇場の近所)という環境・来店客層を知る書店員のが有利なわけで、この結果は当然と言えましょう。

書店員側の更なる圧勝を考えるのであれば、宝塚関連本を入れますね。僕ならそうします。

そもそも、その店で以前から売れている本を入れれば勝てるのです。

本は、その店でよく売れている本がさらによく売れるという法則があるのです。

選書に制約があったのかもしれませんが、この機会にAIとやらを徹底的に叩きのめしてやればよかったと僕は熱くなりますね

この実験で分かるように、AIのざっくりとした選書よりも、書店員による選書のが鋭いのです。

なぜなら書店員はどこが売れやすい場所なのか、客層を的確に把握した発注、売れ行きが悪くともPOPで挽回する、といったことができるのです。

書店員圧勝の結果を受けて

  • さぁ、本の置く場所を研究しましょう
  • 手書きPOPを作るのを推奨しましょう
  • 40代女性といったざっくりした客層の把握ではだめです、しっかりとらえましょう
  • 人間がAIに勝てる人間らしい仕事をするためにはお客様をみましょう

といった動き、書店員の仕事への再評価があるかな、と思いきや聞きません。

単にIT分野の話題提供に終わっているのです。

2018年の実験はAIを通じてAIに無い書店員の良さを再発見するチャンスではなかったでしょうか。

日販SeleBoo(セレブー)も沈黙をしたまま、雪辱を果たすために別の書店で実験が行われた話を聞きません。せっかく開発したAIの沈黙は残念でなりません。

その後、SeleBooはどうなんたのでしょうか?進化しているのでしょうか?


一方でトーハンは

2017年から2018年にかけてAI書店員「ミームさん」

「AI書店員」が本をお薦め、ディープラーニングで表情分析 トーハンがAIに取り組むワケ
Webカメラの映像から、認識した人物の性別、年代、表情を分析して本をお薦めするAI書店員「ミームさん」を体験。トーハンに開発の狙いを聞いた。

というAIを発表しています。

画面に顔を映しAIが画像解析して、年齢・性別・表情を認識しておすすめ本を選書するというものです。

ただ、70冊の中からというのは粗くおおざっぱなAIです。

神社のおみくじのがバリエーション多いですよね。

それもそのはず、AIがオススメと判定した本がその場に無ければ、店の売上にならないので、70冊限定なのです。

先立って2017年ブックファースト新宿店で行われたミームさんのデビュー戦では、51冊のアガサクリスティの作品の中からという制約でした。

さて、そんなミームさん。検索しても2018年以降の足取りがつかめないので

こちらもまた話題として消費され省みられないそのままなのでしょう。

チーン

いずれにせよ、2018年に盛り上がったAI選書。

AIは選書に関しては書店員に敗北を認め尻尾を巻いたのか

それとも水面下で研鑽を磨いているのか 

最近はパタリと話を聞きません。

不気味なのは、2019年2020年となんの動きも無いのです。

いまになってAIを使おうとしているTSUTAYA

と、思いきや見つけました、書店によるAIの活用。

それもTSUTAYAのリクルートページから。

CCCを世界一の出版グループへ。出版業界、書店の未来を変えていく挑戦。 | カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 CCC
CCCを世界一の出版グループへ。出版業界、書店の未来を変えていく挑戦。 | カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の新卒採用情報サイトです。

「人とデータベースのハイブリッド」AIを活用した需要予測。 こうして提案性をもって選書した本の発注において、Tポイントで蓄積された購買データを活用した「クラスタリング発注」を実験中です。現状は、各店の書店員がその店舗ごとのお客様の動向を見ながら発注をしていますが、データだけでその個店毎のライフスタイルに合った品揃えを完成させる挑戦です。AIを使った需要予測の実験を行い始めており、精度も上がってきています。また、売り場でも、本の提案方法の改革が進められています。これまで以上に「おすすめ」を中心とした売り場展開に変えていくことが非常に大切になってきていますね。

これは2022年新卒採用のページです。

一般に採用者を集める目的のサイトは、一番お化粧をしたお見合い写真のようなものです。

そこでも「精度も上がってきている」と控えめな表現にとどまっているところに注目したいです。

もし、実験ながらもいい成果を上げているのであれば、TSUTAYAならもっと前向きな表現をするでしょうが、そうなっていないところにAIの使い方の難しさがあるのだと推察します。

Tカードで蓄積されたデータでどこまでライフスタイル提案ができるのか。TSUTAYAの限界はデータベースがあくまでもTカードというところです。

どういう年齢層がどういうものを買っているのかデータがある。データさえあれば何が売れるか分かるはず、と邁進し一時三越伊勢丹と連携するぐらいでしたが今は提携を解消しています(三越伊勢丹でTカードが使えたのが2016年5月開始2018年3月終了、2年もたなかった)。

これは、人の購買に至る心理は一筋縄にはいかない。データさえあればという単純なのではない、という証拠と言えます。

人のこころを動かことができるのは結局人なのはないでしょうか。

さらに、書店の正社員求人が無いか探している人はご存知かと思いますが、TSUTAYAさんは常にIT人材の求人をしています。詳しい内情は分かりませんが、データを魔法の杖にして黄金を生み出すというのは、難航しているようです。

話が脱線しますが、昨年、CCC「UNIQUE DATA CONFERENCE 2020」という催物があって誘われて見ました。

あるスーパーの事例で、独身世帯には高級なコロッケが、子供がいる世帯には廉価なコロッケ、たとえばコーンコロッケが売れます。なんて話をしていました。

それデータ取るほどでもないだろ

独身世帯はなぜか「ちくわぶ」が売れます!みたいな画期的な発見なら意味があるのですが、これではデータを提供して何を見つけてもらおう、という気持ちになりませんよね。

たまたまその分科会が悪かったのか、あっ驚くことは無かったです。そりゃ、常に人材募集するわけです。

いずれにせよ、そんなTSUTAYAさん何か動いているようです。今回の「クラスタリング発注」が、具体的な成果を上げるのか、全く話に上がらないのか。書店員とAIというテーマ、TSUTAYAの動きが気になるところです。

クラスタリング発注について個人的な結論としては、懐疑的です。

スーパーマーケットでは一般的に行われているのですが、果たして本に対しても有効なのだろうか。一部既刊でしかも季節性のあるものには有効だが、新刊はほぼ効果を発揮しないのではないかと考えるのです。

なぜ、難しいかというと、商品群にクラスター定義をする際、特に新刊に対しては評価が定まっておらず無理があると考えるからです。

AIから脱線しますが、この発言も注目です。

これまで以上に「おすすめ」を中心とした売り場づくりの大切さをBOOKカンパニーの社長が言っているのですが、TSUTAYAは具体的にどう「おすすめ」を推すのでしょうか。

もっと手書きPOP・SNS発信・書店員による個人発信の強化に舵を取るのか、それとも別の方法があるのか、あわせて注目したいところです。

いまAIができることは類書の提案だけ

現状AIが書籍に対してできることは類書の提案ぐらいではないでしょうか。

売れる売れないは別として提案ならば、現在でもできますし、書店員自身もフェアを作る際にAmazonで検索しては表示される類書を参考にしています。

Amazonが提示する類書から、店にあった本を抽出するのが書店員の腕の見せ所なのです。


AI選書についてはこんなサイトがあります。

しかも個人サイトです。個人サイトでここまでできてしまうのです。

AI選書サービス「BOOK4U」について
AI選書サービス「BOOK4U」について。自分に合った本をAIがレコメンド。本と読書と出版の未来を考える実験的プロジェクトです。

試みに、メカ書店員やってみました。

  • お伽草紙 太宰治(10銭銅貨が好き。)
  • 死者の書 折口信夫(未読)
  • 蜜柑 芥川龍之介(表題作イイね。こころが洗われる)
  • 婦系図 泉鏡花(未読)
  • 日本三文オペラ 武田麟太郎(未読)
  • 地獄変 芥川龍之介(未読)

メカ書店員へのおすすめは明治期の小説のようです。

6冊中2冊は読んでいるのでこれはなかなかの精度ではないでしょうか。

トーハンのミームさん ぐらいの…いや以上の精度はありそうです。

AIが出来ることはこのぐらいで、書店員よりも売れる選書となると別次元です。実際のお客様を知っている書店員が有利なのは変わらないのではないでしょう。

残念なのはAIに書店員がなぜ勝利したのか、そこの深堀りがないのです。

日販は書店流通の半分を牛耳る大会社です。AIが売れるだろ?と推したものが現場の書店員に対してダブルスコアであったということは、つまり現場の書店員こそ、

  • どの場所が売れやすいを知り
  • どんなお客様が買うのかを知っている
  • しかも、POP展開も状況に応じて出来る

これが現場の書店員の価値であり、かつ伸ばすべき価値ないでしょうか。

また本を選ぶことは働く喜びでもあります。

選ぶことが書店員自身の喜びなのです。

書店員だけではありません、出版社だってそうではないでしょうか。

これはネット見つけたnoteです。出版社アルファベータの社長さんの文章です。

人間の書店員と違って、版元の前の担当者が迷惑かけて嫌われてるとか、たんに相性が悪いとか、たまたま訪問した時に機嫌が悪かったとか、たまたま忙しくて対応できなかったとか、逆にたまたま相性が良くて、やたらと気になってもらって注文が増えたり、書店員が個人的に好きな著者やジャンルだったり、書店員がとても優しい人で頑張っている版元営業のために努力を買ってくれて実績もないのに試しに多めの発注を出してくれるとか、そういったことは全てなくなる。  発注に何も感情が混ざってなくてシンプルで楽だけど、なにも味気なく、人間的な成長も、感動も、挫折も、ドラマは、もはやそこには存在しない。

AI書店員さん|飯田橋の小さな出版社の社長です。|note
先日、某社の営業部長とAmazonのAIの発注パターンについて話し合った。 「ネットか何かでバズってAIが爆注してきた時は、結構的を得てる注文数だから満数出した方がいいけど、新聞のパブとかで短時間にバズっただけのAIの発注は結構無駄に多いから減数した方がいいよね」 なんて、AIの仕入れ担当者について情報交換をし...

棚に挿さっている本にはそこにたどり着くまでのドラマがある。

例えば、強気になってたくさん発注してしまった本を営業担当さんの顔を思い浮かべながら如何に売るか考えるようなこと。これが商売ではないでしょうか。


対AIとの戦いには、心強い援軍がいます。それはお客様自身です。

お客様はドラマで動きます、こころで動きます。

モノではなく、その背景・ストーリー・プロセス・物語の匂いをかぎ取り消費するのがお客様です。

人が編み選んだ物語ある棚にお客様は価値を感じます。

これこそがリアル書店の「おすすめ」を体現するものでは無いでしょうか。

2020年代のAIと書店員。

販売員はAIにとって代わられる職業なんて言われますが、書店員に限ってはそんなことはありません。売上を作るためにはかなり繊細な仕事が必要です。

その商売を打ち破る、度肝を抜くようなAIが現れるでしょうか?

囲碁将棋AIが人類を屈服させたように、書店員を屈服させるAIが現れるのだろうか?

ますます目を離せません。

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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