書店の物流は往復が基本です。
朝書籍が届けられると同時に返品書籍を積んで帰るのです。
書店は届いた商品を返品できるという特徴があります。
仕入れて何か月も売れなかった、フェアの予想が外れてたくさん余ってしまった。その場合売り切ることなく、返品が出来るのです。
つまり、書店に並んでいる書籍は、富山の薬売りよろしく、すべて委託品なわけです。
しかし、いつでもなんでも返品できるか。そうでもないです。
今日のテーマは書籍の返品について。
正直、書店員の仕事は書籍を棚に補充することよりも、返品のが大きいです。
なにせ返品率は40%台ですもの。1000冊刷っても400冊戻ってくるのです。
これは、段ボール箱に100箱届けば40箱は返している、と同じことなのです。
実は、メカ書店員。返品の鬼です。返品テクもあわせてお伝えしちゃいます。
曖昧な書籍返品の仕組み
全ての書籍が返品できるかというとそうでもない。
出版社によって、お店の規模によっても異なってくるのです。
ケースバイケースとなるので、書籍をさっと見て、
「フリーでイケる、電話がいる、FAXがいる、担当者の名前を付けて返品可能ね。」
「あ?これは厄介だ、店長に電話させて。」
「この出版社ね…こことは取引しちゃだめだと、マニュアルに書いたのに!あーもー!」
といったやり取りが書店バックヤードでされています。
出版社によって、お店の規模によっても異なってくる返品の仕組み。
一筋縄でいかないところが、じつに曖昧で現場をノイジーにしているのです。
返品できる。了解書付きで返品できる。返品できないの3通り
パターン1 返品できる
ダンボールに詰めて、取次に送り返せば終わるもの。一番楽ちん、全部こうなら嬉しい。
パターン2 返品了解書付きで返品できる
返品になにかしらアクションが必要な書籍。これが難解です。
3つのパターンに分けられます。
- 出版社に電話をかけて、担当者名を聞き了解書を付けて返品できるもの
- 出版社にFAXを送り、返ってきた了解書の返信を付けて返品できるもの
- 出版社に電話もFAXもいらないが、出版社側の担当者名を了解書に書き入れて返品するもの
了解書がないと、取次から逆送といって、書籍が送料とともに送り返されるのです。もちろん送料手数料は書店持ちです。
対応が出版社ごとに決まっていればいいのですが、店の規模感で若干異なるのです。
同じ出版社でも旗艦店であれば、了解書つけなくて返品できるのに、小規模店では必要になる。そんな格差があります。
仕事のうちとはいえ、電話やFAXが手間です。
しかもFAXの返信待ちに時間がかかる上に、他のFAXと紛れ込むことがしょっちゅうです。
・・・出版社サイドも、全国の書店から返品了解の電話・FAXが集中して手間を取られていると思うのですが、何故か了解書を必要とする出版社が、年々増えている印象があります。
推するに、電話・FAXを課すことで、返品のハードルを上げ返品率の改善、強気の発注を抑制する、そんな効果があるのかもしれません。
しかし、お互いがお互いの無くてもいい仕事を増やしているだけではないでしょうか。
とくに、旗艦店ならフリーなのに、小規模店ではダメと言うのなのはなんなのでしょうか。
さらに
パターン3 返品できない
そんな書籍が存在しています。
岩波書店が有名ですが、環境を整えれば岩波は返品できます。
営業さんと仲良くすれば、販売金額の〇%とか返品枠を作ってくれます。
そこを活用すれば、恐れることはありません。(〇の部分はどうも店舗の規模によって異なるらしい。)
岩波版「星の王子さま」「モモ」「君たちはどう生きるのか」
この鉄板を回転させることで、販売金額を稼ぎ、勇み足で取ってしまった岩波を返品すればいいのです。
「星の王子さま」なんて2005年にサン・テグジュペリの著作権が切れたことを良いことに、様々な出版社から翻訳が出ています。確実に売れる美味しい本ですからね。「星の王子さま」
きっと、様々な異本があれども、内藤濯の訳こそ正統である。内藤さんが「Le Petit Prince」を「ちびっ子おうじ物語」訳さず「星の王子さま」としたから躍進したんだ、と岩波は思っているはずです。
売れる岩波で売上金額を稼ぎ、返品枠を稼げば、岩波にびくびくする必要はないのです。
必要に応じて、岩波を導入することで、格のある棚を作ることが出来るのです。
これが出来ていないお店は、どんどん背中の焼けた岩波本が増えてゆきます。
書店の練度を見る一つの指標です。岩波焼け率。
また、返品できない出版社に
零細の出版社、学術系出版社があります。
「うちは、客注でしか出していないはずだ」と返品を拒む出版社や
発刊後3か月までフリーだがそれを過ぎれば買い切りだ。
期間を過ぎている云々と返品了解を渋るのです。
このような、返品を試みたがダメだった本がバックヤードに溜まってゆきます。
無責任な担当・店舗になればなるほど、放置しています。
店舗の練度、店長の責任感を見るのにいい指標です。返品不可品、放置量。
ぜひとも、人事査定の項目にいるべき項目です。
さて、僕は放置本を引き受けて、ガリガリ返品したものでした。
返品は交渉です。こういうの得意なのです。
「メカさんはどんどん返品してく、なんなんだあれは、」
「むしろ出版社かわいそう。」と一目置かれたものです。
メカ書店員の書籍返品テク
前提として、このテクニックは男性の声で行います。
業界の悪しき部分ですが、応対が女性か男性かで異なるのです。返品TELは男性が望ましいです。
まず、FAX了解にしてという出版社
「棚卸が近いので、FAXが待てません、口頭で了解できませんか?」と押す。
可能な限り電話了解に持ち込む。出版社によってはFAXの届いた届いていないで、揉めることがあるのです。
「届いた届いていないで、お互いに気持ちをすり減らすのは、ご面倒じゃないですか。今日は口頭でということにしませんか?」と畳みかけるように、歩み寄りましょう。
返品お受けできませんという出版社
「さようでございますか。では、お手数ですが判断できる方に代わっていただけますか?」と引き下がります。
電話変わった上席に
「返品が難しいこと承知しております。期限を失念していた私共に落ち度があります。そこを曲げるようで、□□部長(相手が課長だとしても、部長とする。)に代わっていただき恐縮です。最近、御社は〇〇が最近動いています。いかがでしょうか、〇〇を今回の返品××円分と同額以上注文いたします。頑張って売ってゆきますので、今回返品を受けていただけませんでしょうか。」
と食い下がる。
責任者に代わってもらえない場合もあります、その場合お戻りが何時になるか聞きましょう。
あくまでもお願いをする立場なので、相手を立てます。
案外、代替注文で返品了解になることがあります。相手が100%損になる返品ではなく、新たな注文に繋がっている、なら期限が切れようが受けてくれるものなのです。
どうして、交渉で返品できるようになるでしょうか。
実は、出版社は旗艦店と小規模店で対応を変えているからなのです。ここが漬け込む隙なのです。
どのみち、旗艦店の返品を受けているのだから、小規模店の返品を例外的に返品受けても問題ないのです。
おまけに、相殺で新たな注文を出してくれるなら、ありがたいぐらいなのです。
「返品できません。」と断れたら、ここからが交渉です。食い下がって判断できる人に代わってもらいましょう。
結果、出版社が倒産してしまったものを除いて、スタッフが返品できなかった書籍・雑誌の8割は返品していました。
それでも、ダメなところがあります。
どうしてもダメだというので、逆に闘志がわいてきて、
「ではお持ちします!」と新幹線に乗って出版社に乗り込んだことがあります。
出版社がやっている事、ググってSNSチェックした上で、社長と面談。かなり煙たがれましたが、あの規模では返品を受けないのも無理ないな、と腹落ちしました。
むろん、その出版社の商品は以後客注を除き頼んではならぬと、回状を回しました。
その、返品了解リストいまも正しいですか
日常業務として、どの出版社が電話なのかFAXなのか分かりやすいように、返品了解リストがバックヤードに貼っています。
店ごとに作っているのですが
明らかにFAX必要ないのに、必要とされていたり
付け加えるべき出版社があったりします。
何店舗か渡り歩いていると、まずそのリストを見ます。出版社側からどう見られているかが分かるのです。
えー、この出版社フリーだろ!と送って、みごと逆送を喰らい。懇意にしている営業さんに。
「なんで、逆送にしたの、なんで?前の店はそうじゃないかったのに、なんで?」
「いや、、それは規模が…」と、言いづらいことを言わせてしまったことがあります。
逆に、返品できてしまこともあるから、いたずら心でいろいろ試しています。
本部施策による買切りの推進
返品は書店員の大切な業務です。著者さんにとっては、不都合な真実ですが、返品をコンスタントに行ってゆくことにより。書店のフレッシュさが担保されるのです。
そう、あまりアクセス数の少ない記事がいつまでもヤフーのトップページにのっていることはないですよね。
あれと同じです。健全な書店のための健全な返品は必要なのです。
しかし、ちかごろ本部政策として、買切りを推しすすめるチェーンがあります。取次の思惑(特に日販)なのですしょう。返品率を下げたいがために買切りをすすめるのです。
具体的には、特定の出版社について利益を上乗せする代わりに半年は在庫せよという政策です。
うっかり返品すると、1冊につき少額ですがペナルティを払うことになるのです。
得られたインセンティブを見て、年間運用してこの利益はありがたいな、と感じた反面
特定出版社の売れない本について、在庫が塩漬けのまま膨らんでゆくことが果たして正しいのか考えさせられました。
塩漬けのあいだ、検索上在庫ありになるためお客様からの問い合わせで機会損失を起こしている。
棚卸の度にカウント手数料がかかる。(カウント手数料は1冊あたり4,5円かかっています。)
返品担当が、一冊一冊、返品不可商品か確認をしている。
買切り政策がスタッフやお客様のためになっているのか、単に現場の効率を下げている印象を持っています。
売れない本を作り、配本している側には問題ないのでしょうか。返品率を下げたければ、そもそもの配本を少なくすればいいのです。
そうしたら、売れ筋が・・・大丈夫。
書店は新刊を追うことから、既刊をしっかり売ってゆくに在庫政策を変えてゆけばいいのです。
文庫担当が新刊に追われている記事を書きましたが、店頭から2,3か月で消えてしまう本が多い中、本当に出版に足るものは何か、出版点数を絞ることこそ返品率対策として着手するべきではないでしょうか。
編集者も昔に比べて書籍を出す頻度が上がったために疲弊していると聞きます。
金策の為、荒い本でも出版し続ける必要のある出版社はあるでしょう。けど、自転車操業はいつか破綻させるべきではないでしょうか。
返品があるからこそ、店をフレッシュな状態にできるのです。
近年の買切り政策は、お客様のためというより、送料高騰に伴う、取次・運送業者の都合と言って差し支えないのです。
買切りを進めるのではなく、配本を減らし、既刊を目利きする書店員の育成
そういった、選択も取りえるのではないかと、考察するのです。
ええ、返品電話したくないですね。書籍返品テクニックに腕に覚えありますが。
けっこうしつこい電話をしますので、そこの営業さんが来ると
「その節は、アハハ。」と苦笑いです。
いやっ、僕がどれほど書店営業さんを大切に考えているかはこの記事のとおりなのです。
本当は返品テクが活かせなくなる書店運営を希望しているのです。
今日はここまで
お読みいただきありがとうございました。