書店員をしていると同じ本を扱っている、公共図書館・ブックオフ、古書店に対して距離を取りがちです。
いわば仮想敵同士なのです。
図書館は公共サービスとして無料で本を貸し出します。
ヤツらが新刊をどんどん入荷し貸し出したら、書店の本が売れなくなる。実際、ハリーポッター上下巻を50巻づつ入れた図書館なんて存在しています。市民の要望に応えるためとはいえ、官業による民業圧迫なのです。
そこまでして公共図書館は貸出回転数が期待できる本を大量に持ち、貸出数が増えました!と首長・文科大臣に「いい子、いい子」されたいのか、とウンザリします。
しかも、書店の売り場から「本なんてね!図書館で借りればいいの!」なんて声した時なんてね・・・
書店員が公共図書館について考えると緊張が伴うのです。
ブックオフなど古書店も緊張関係にあります。
これがあるために万引きが起きているのではないか、という見方があるからです。
文学賞を受賞したばかりの本が目立つところに陳列されているのを見ると、その仕入れ先は一体どこなんだと詰問したくなります。
また、専門書が高額になるのは、古書店の存在が大きいです。
3000円スタートが基本な人文書・理工書。この値付けは、専門書が小部数であることはもちろん、専門書が古本として二次流通していることを前提とした値付けだと感じるのです。
専門書版元とすれば、古書店があるので定価で売れない。だから対抗して値段を吊り上げるそうでないとペイできない。
著者サイドからしても公共図書館・ブックオフなど古書店の存在は、読書層を増やすことには貢献しているが、本来売れて印税が入ってくる部数を減らす存在ではないか、そう解釈できるのです。ね、困るでしょ。
人に比べ、本が好きという点で、書店界・公共図書館界・古書界の住人は一致しているのですが、それぞれの商売に関しては、確実な緊張関係にあります。おまけにそれぞれ縄張り意識が強いです。夏の鮎みたいなものです。
しかし、一般人からみれば、楽しく利用できればいいのです。どういうルートであれ本が楽しくあればいいし、鮎は美味しければいいのです。
僕は、なるべく公共図書館や古書店に足を運ぶようにしてきました。それは敵情視察というのもありますが、書店を利用する一般人の感覚に立たなければ、書店の魅力を引き出すことはできない。公共図書館や古書店に出来ないことを書店はしなければ有利に立てない。勉強するつもりで定点観察していました。
その中で分かったことは、書店・公共図書館・ブックオフ同じ本を扱っているが、並べ方、本の種類に違いがあって楽しく、 学ぶものがある。
という事です。
そこで、今回のテーマは書店・公共図書館・ブックオフ、古書店それぞれの特徴と楽しみ方、緊張について語ってゆきたく思います。
自己紹介
申し遅れました
好きな魚は、太刀魚の塩焼きです。
私 メカ書店員と申します。
10年以上書店業界にいます。
書店員として経験してきたことは
- 旗艦店
- 新店立ち上げ
- 書店外商
- 管理職
- 本部
- 都会の店舗
- 田舎の店舗
- 本のないお店
と様々な場所を経験してきました。
ライバルとも言える、公共図書館・ブックオフ、古書店も
敵情視察と称し、随分、足を運んだものです。
書店 良さは時代を映す即時性
書店の長所と言えば
まず、新刊に強い即時性です。新刊は世間を映します。しかも、すぐに買えます、情報を所有できるのです。
逆に短所として、コスパは悪いです。定価商売です。
新しい書籍に強い一方で、コンスタントに売れないと、在庫に残らないです。
名著・古典・近著であっても実績が伴わなければ、棚が限られている関係で在庫していないことが多いです。
「書店で買うか迷ったときは買うべし」という格言があるのは、棚在庫が流動的であることの裏返しなのです。
在庫していないことがお客様の不満となり、それを解消しようと書店は大型化しました。
それで在庫不足が解消された反面。中小の書店が撤退に追い込まれたり、残った大書店も坪効率悪く不良在庫を抱えたり、広くて管理が行き届かない、など弊害が起きています。
また、店の特色が平均的です。
代表的な書店。紀伊国屋書店・丸善・三省堂書店 各店舗に特色はあるでしょうか。僕は書店員という立場上、入口に立つだけで違いが分かりますが、一般的ではないです。お客様からすれば、どこも一緒ではないの、との感想を聞きます。
扱っている書籍の特徴としてはISBNのついた出版物はほとんどあります。
それだけに、怪しい本もあります。社長の自慢本、半自費出版本、ギャンブル、性情報、エロ本、教祖様本、何でもありですね。
実は、書店の在庫から目指す本を見つけるには技術が必要です。
ところが、書店員は立場上「これは、買わない方がいいよ」という行動を滅多に取らないです。お恥ずかしながら、新刊の垂れ流しになっているきらいがあります。
今を知りたい。最新を知りたいに向いています。
・・・
学びたいこと知りたいことの傾向をざっくりつかむことが出来ます。
しかも、すぐに所有できるところが便利です。
使い方に慣れるためには、ひいきのお店を持った方がいいでしょう。
公共図書館 じっくり調べものに最適
対して公共図書館は即時性に弱いです。世間を映さない、ラインナップにタイムラグ生じています。検索上蔵書していても、誰かが借りていてすぐに読めないこともあります。
そして、所有できません。返却が必要です。休館日もあります。
ただ、コスパ最高です。無料です。
地域差がありますが、図書予算の少ない自治体ですと新刊自体が少ないです。
東京都の図書館は、新刊が多くて驚きましたが、それでも書店には負けています。
日本図書分類コードで分類されているので、基本そのコードさえ使いこなせれば探しやすいです。
ただ、すべての書籍があるわけではなく、司書さんの選書を経ている関係なのかギラギラしている本は少ないです。具体的に言うとちょっとギラギラ入っているビジネス系に弱いです。
これは、推測なのですが図書館の蔵書はジェンダーバイアスがかかっていると疑っています。
図書館勤務者に女性が多く、文芸・児童書・女性実用書(特に手芸関係)が手厚くなっていると感じるのですが、いかがでしょうか。
利用者に勤労男性が少なく、この層に受ける蔵書は貸出率低く、その結果あまり選書されないのかもしれません。
少なくとも、書店の在庫と比べて差を感じます。
また郷土資料にも強いです。
一般的にあまり意識されていませんが、図書館は本のある場所というよりも調べるための場所という機能にこだわりがあります。司書さんのレファレンスへの矜持には頭が下がります。
全国のレファレンスの実例が
https://crd.ndl.go.jp/reference/ (レファレンス協同データベース)
にあるのですが、
例えば、
時代劇で馬に乗るとき、右側から乗っているのを見た。現代では左側から乗ると思うが、(1)いつから左乗りになったか。また、(2)右乗りだった理由が知りたい。
こんな、事にも答えているのですね。答えが気になる方は上記URLで確認してください。
こういうことは書店にはできません。
さて、そんな公共図書館ですが様々な緊張に直面しています。
建替えが政争の道具となる。
改装されて、市民の憩いの場として着目される一方、図書館としての機能が軽視されている。
専門職の司書が減らされ、司書資格を持たない非正規が増加し。業務委託者という名のコストカットが止まらない。
https://toyokeizai.net/articles/-/260901 (街の図書館が「6割非正規頼み」の厳しい現実 東洋経済)
司書の現場は今後どうなってゆくのでしょうか、
書店もまた非正規スタッフが増大しているのですが、この相似性に暗雲を感じます。
・・・
こんな使い方ができます。
図書館が最新ではないものの、過去に出た有用な本が蔵書されています。
それは購入することはできませんが、大いに参考になります。
書店が新刊偏重であることに対して、図書館が近刊・古典を蔵書していることは心強いです。
また、レファレンス機能を活用して調べものがはかどります。
図書館も、またひいきの図書館をもちたいものです。
ブックオフ・古書店 非ISBN本など発見がある
新刊に弱いとされるブックオフですが、意外とあったりします。読んだらすぐに売るのか、それとも犯罪性があるのか、是非とも誰か踏み込んでほしいです。
古物買取なわけですから、買取の際に身分証明書を差し出しています。新刊ばかり持ってくる常連に対するけん制はあるのでしょうか。
これは、万引きに苦しむ書店サイドからの穿った見方で、
新刊を買取に持ち込むお客様を疑いの目で見ては商売に差し障りがある。
と反論されそうですが、
ブックオフに意外と、新刊があるのは不思議に感じています。
はい、いきなりブックオフ・古書店に触れると緊張が生まれますね。
その他特徴として
在庫は売られた書籍をであるために即時性に弱い。在庫が世間を映さない。その代わり、少し前の本が安価で所有できる。コスパは良いです。
また、地域性が出ます。高級住宅街、大学が近くにある、地方。こんなものがと発見があります。美術館の図録もあり、書店以上に様々な本があります。
並び方についてブックオフは機械的やっていますが、古書店によって店によってまちまちでそれがかえって面白いです。
地方の古書店にゆけば、ISBNの付いていない本、教育委員会が出した本、その地域のカタログなど、書店や図書館がカバーしていないゾーンが商品化されています。しかも所有できる。
ちょっと、珍しいものを探す、この宝探し感はブックオフ、古書店の強みです。
あと、実態は知りませんが、店主は個人事業主であることが多く。癖があるが、楽しんでやっているのだろうな、感が伝わってくるのが微笑ましいです。
おわりに
このように、書店、公共図書館、BOOKOFF、古書店。三者特色があるのです。
書店員目線としては、ライバルの特性を熟知した上で戦術を練りたいものです。
お客様とすれば、それぞれの特色にあった本の探し方をすると、もっと読書が楽しくなります。
実は書店も特色があるのですが、それは稿を改めます。
八重洲ブックセンター本店の考古学売り場について、なんて語りたいのですが、ね。
今日はここまで。
お読みいただきありがとうございました。