新生活がはじまった4月。フレッシュな背広を着たビジネスマンを売り場でよく見かけます。
青雲の志を持って入社し何事をかなさん!
俺は日本経済を洗濯し候、なんて考えている事でしょう。
そこで、今の自分に何が必要なのか、書籍を探しにやってくるのですが
残念な書籍を選んでいるシーンを見ます。
レジを打っていて。この本、今のステージで読むのかい?これはエグゼクティブ向けで新人にはちょっと・・・単に知的好奇心を満たすだけにはよいのですが・・・うーん。
そんな瞬間があります。
書店は本が売れればいいので、お客様が何を買おうが自由です。そこは口をはさむことはないです。
しかし、それでも、アパレルショップがその人の体形に合った服を選び提案するように、
書店だってその人のステージにあった書籍を選び提案することがあっても良いのではないでしょうか。
直接に接客で、出来なくともこのブログでお伝えできればと考えるのです。
ということで、今回のテーマは 書店員が教えるビジネス書の選び方です。
結論から言います
自分の知的好奇心を満たす本と自分に効く本は異なります。
特にビジネス書選びは、自分の見つめ、自分の今を豊かにする本を選ぶ視点が必要です。
こんなことありませんか?
スマホでニュースを見ていて、『東京の絶品ラーメン特集2021年訪問すべきお店7』
美味しそうですね。ついクリックしませんか?
関西に住んでいるのに。。みたいなこと。
関西に住んでいて、そうそう東京に行くことないのに、なぜウヌはクリックするのか。
7店舗、接点ないでしょ。その情報。脳髄に入って何の効用があるのですか?
同じことが書店でもあるのです。
自分が新入社員と想定をして
自分の知的好奇心を慰撫するような。
『ダントツ新入社員。1年で1億売上物語』
『ゆるふわ主婦FXでセレブ生活』
『2022年米中日経済はこうなる!』
こんなタイトルの本があったとします。
新入社員で売上1億興味深いなぁ。FXでセレブ生活いいなぁ。大統領も変わったし国際経済気になるっ。
と興味のおもむくままに、買って読んだところで、
その情報。脳髄に入って何の効用があるのですか?
説明すると
『ダントツ社員。1年で1億売上物語』
そもそも、あまり聞いたことのない出版社だと、半自費出版の可能性があります。
その時点で地雷なのですが、内容と自分はどこまで接近できるでしょうか。
1億売上の商材はなんでしょうか?それとあなたが扱っている商材に接点はあるでしょうか。
内容が根性論に傾いていませんか。この著者の環境と、自身の環境と照らし合わせて、共通点はありますでしょうか。
共通点、再現性がなければ、意味のない本なのです。ダントツ新入社員がどんな人か気になりますが・・・
『ゆるふわ主婦FXでセレブ生活』
FXにしろ、株にしろ種銭がいります。それもまとまったお金が。
100円から投資が出来る、なんてCM見ますが、それで生活するとなると、そもそも大きなお金が要ります。用意できますか?
種銭なければ意味のない本なのです。ゆるふわ主婦がどんな人か気になりますが・・・
『2022年米中日経済はこうなる!』
米中日経済が変動すると直接にあなたの生活が変わりますか?
こういった大局観に酔い。うーむ、経済三国志だ。俺は諸葛孔明。と悦に入るのは気持ちいいです。
とても気持ちがいい、世界を知ることは気持ちがいいですよね。
けど、けど、それって本当に必要なの?
出版ビジネスはいかに人の好奇心を誘うタイトルにするか
書店はいかに来店されるお客様の好奇心を呼び起こす展開をするかに力を入れています。
そんな仕掛けにこころ揺らいで買ってしまえば、いま本当に自分に必要な事にたどり着けないのです。
そういえば、好奇心おもむくまま買った本が部屋に転がっていませんか?
自己紹介
申し遅れました
私 メカ書店員と申します。
10年以上書店業界にいます。
最近はまっているのは、家で中華鍋を使って、麻婆豆腐を作ることです。
書店員として経験してきたことは
- 旗艦店
- 新店立ち上げ
- 書店外商
- 管理職
- 本部
- 都会の店舗
- 田舎の店舗
- 本のないお店
と様々な場所を経験してきました。
どちらかというと、積極的にレジに入る社員さんでした。
売れ方や人を見ながら棚を再構成し、担当した棚はすべて売り上げがアップしました。
その経験から、ビジネス書選びについて語ってゆきます。
自分に必要な本にたどり着く方法 書店の棚構成を理解する
自分に必要な本にたどり着くためには、自分の見つめ、自分の今を豊かにする本を選ぶ視点が必要です。
それが大前提です。
次に書店の棚構成を理解する必要があります。
書店は一つの大ジャンルに付き従う小ジャンルがあり、それにそって棚が出来ています。
大まかな分類
- 経済
- 経営
- 業種別開業・経営・繁盛の方法
- スキルアップ
- 金融
- お金儲け
- 税金
- 就職、転職
細かく見てゆきますね。
経済
- 日本経済
- 世界経済
- 経済学書(ミクロ・マクロ・マンキューとか)
「GDPとか貿易とかIS-LM曲線がどうの、といった大局的な話が主です。」
経営
- 企業別読み物 国内
- 企業別読み物 海外
- 法律
- 経営学
「任天堂がどうの、アップルがどうの、という本がここで登場します。経営学、ランチェスター戦略など出てきますが、会社が自身の宣伝のために作った本が紛れ込むことがあります。」
「法律書は書店の規模により別分類となります。」
部門別お役立ち本
経理│総務│人事│秘書│営業│広報│危機管理│ブランディング
「それぞれの部門別に役立つ本が並んでいます。華やかさに欠けますが必要な本です。実はここに採用に関する本があり、面接官側がどんなことを考えているのか知ることが出来ます。」
「ブランディングでも、具体的な商品デザインについては、芸術書に分類されます。」
業種別開業・経営・繁盛の方法
- マッサージ屋開業
- 独立開業
- 繁盛する小売店の作り方
- 起業
「飲食店経営については、料理書-専門料理-店舗運営に分類させる場合もあります。両方のチェックが必要です。」
「起業成功例が書籍になるのですが、果たして、これは万人に当てはまるのか、怪しい本があります。」
「これだけ、商業的に成功する本があるのに、書店で儲ける本が無いのは悲しいとです。幾つかあるって?実はフェイクだったりするよ。」
スキルアップ
- 仕事術 (ビジネスマナー、企画の立て方、整理術、文章術、やる気スイッチ、リモートワーク)
- 自己啓発書(成功の秘訣・成功者の体験)
「ハーバード式仕事術、といった本もスキルアップに分類されます。すぐに役立ちそうな本が多いのですが、個人の体験なのか、万人に当てはまるような内容なのか確認が必要です。」
就職・転職
- SPI
- 面接
- 転職者向け読み物
「シーズンによってボリュームの変わる棚です。」
「就活生なら必ず買うので手堅いジャンルです。こういう手堅い本がしっかりしている書店は気に効いた書店言えます。」
金融
- 各種銀行業務検定
- 証券・保険・投資信託
「業界に属している人がお買い上げになります。」
お金の増やし方
株式・FX・投資・不動産投資
「小金を稼ぎたい、不労所得を得たい、そんな欲望が渦巻いています。儲かった人が本を書くのですが、果たして再現性があるのか、一考が必要なジャンルです。」
「そういえば、ゴールドラッシュで儲けたのは、金を採掘した人たちじゃなくて、採掘工具を売った人たちだった、なんて話を聞いたことがあるな。それと同じ匂いがするコーナーです。」
「ちなみに、宝くじ攻略法は男性実用書-ギャンブルー宝くじに分類されます。」
税金
- 確定申告
- 節税
- 税理士読み物
「業界に属している人がお買い上げになります。節税については、個人事業主にとっては気になるテーマです。」
各種資格
「行政書士・司法書士・社会保険労務士・税理士・弁護士・・・色々です。ただ、色彩検定、栄養士、世界遺産検定といった資格は別ジャンルに振られることが多いです。別ジャンルに振られる資格書の位置を的確に覚えるのが書店員の仕事です。」
ざっくり、このような構成になっています。構成を理解した上で、探すと自分に必要なものは何なのか見えてくるのではないでしょうか。
自分に欠けているものが
- ビジネスマナーなのか
- 同僚との関係なのか
- 企画書の書き方のなのか
その心の問いに答える本を探せばいいのです。
しかし、探すのは面倒ですよね。
探すという行為は、宝探しのようで楽しいという解釈・価値も理解していますが、一方で探すこと自体がコストとも言えます。
ビジネス書分類の問題点は、学習参考書のようにステージ別になっていないこと
現在のビジネス書の分類は対象とする読者別に編集されていません。
学習参考書は最低限、小学校・中学校・高校で科目別に分類されているのですが、ビジネス書はそうではないです。今のところ、対象とする読者別に編集されたビジネス棚を見たことはありません。
たとえば、こんな分類の書店があったらどうでしょうか?
- 経済学部・商学部など学生向け
- 就活生向け
- 新人向け
- 中堅社員向け
- 人事総務向け 営業部向け 財務部向け
- 管理職向け
- 経営層向け
あってもよさそうな気がしますが、残念ながら読み手のステージに合わせたジャンルで作られた書店は無いです。(もし、あるよ!見つけたよ!という方いましたら教えてください。)
ゆえに、選んだ本と自分とのミスマッチが発生し、好奇心おもむくまま買った本が部屋に転がっているのです。
ステージに応じた学習参考書のような分類になっていない以上、ビジネス書選びは、自分に向き合うが第一なのです。
ビジネス書の選びで気を付けたい 3つの地雷
先ほど、少し触れましたが、ビジネス書には地雷があります。しかも、ビジネス書特有の地雷です。
一つは半自費出版
自分の会社の宣伝として本が出版されることがあります。出版されるわけですから成功が強調されています。
この成功例が自分に適合し反復性があるかは疑わしいです。
読むと、なんだか誰でも億万長者になれるような気がしますが、なかなか厳しいです。
夢はありますが・・・どうでしょ、
積み上げが足りない、やり抜こうよ、成功するまで続けるから成功者なのだ。
といった、真実なんだけど根性論が跋扈している地雷です。
二つ目は社長の自慢本
痛いです。社長へのインタビューを再構成したような本です。しかも自社の出版社で出している場合すらあります。
その会社の内部にいる、その会社のトップに近づきたい、ヨイショしたいという目的があるならばいいですが、一般読者手を出さない方が賢明です。
同じ会社が同じような内容で何度も出版することもあります。
開祖様の評伝が様々な使徒によって書かれるのと同じことなのでしょう。
僕はこの手の本が発生すること自体に、宗教社会学的な好奇心がウズウズしますが、原則、一般読者手を出さない方が賢明です。
三つ目は教授の自慢本
ビジネス書でも専門書ですが・・・これは大学の先生が実績作りに書いた本だな、というものがあります。
大学や学会での栄達のために著書を作ることがあります。自分の実績として出版するのです。
その先生にしたがう学生、大学の授業で必須のテキストとなっている場合はいいのですが、関係外の方は手を出さない方がいいです。
なんで、こんなニッチで分厚い本が、配本されるのだ。と書店の現場も時々困惑しています。
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なお、地雷本ですが、タイトルの付け方が上手かったりします。
タイトルがいいとAmazonでついポッチとしてしまいますよね。
Amazonじゃ中身が十分に分からない。
こういう地雷を踏まないために中身を確認したいですよね。
中身を確認できるリアル書店こそビジネス書を選ぶ強みがあるのです。
ぜひ、足をお運びください。
最後に
最近、僕は『ルワンダ中央銀行総裁日記』中公新書
を読んでいます。
銀行マンでも、アフリカでも、1960年代でもない、メカ書店員ですが、
好奇心おもむくまま読む本は楽しいですね。
ページをめくればルワンダの風を感じます。
『2022年米中日経済はこうなる!』
これは存在しない本です。
ただ、この手の本を読んで、経済三国志だ。俺は諸葛孔明。と悦に入るのは気持ちいいです。
必要な本が必要なところに届いてほしいという願いがある一方で
単なる好奇心の拡張に愉楽があるのも事実です。
おそらく、人は単なる好奇心のが強いです。でなければ書店は成り立ちません。週刊誌も成り立ちません。
それゆえ、自分に必要なものが何か、答えを求めにビジネス書を選ぶときは、好奇心を抑制しつつ自分に合った、自分に必要なものを探す事を心掛けた方がいいと考えるのです。
あぁ、あぁ、好奇心おもむくまま読む本は楽しいですが!
今日はここまで
お読みいただきありがとうございました。
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